「年を取ってがっつり食うというモチベーションが落ちた」と書いたな。あれは嘘だ。
店と飯
世田谷は面白い街だと思う。国道246号はその上を首都高3号が通っていることもあって、耐えがたくうるさい。歩道は自転車が傍若無人に走り回り、歩行者の横を信じられないほどすれすれに、信じられないほどのスピードでかすめていく。ところが、そこから道をそれて1区画も歩くとあっという間に静かになる。ははぁ、これが高級住宅街か、などと妙なことに感心してしまう。
そんな住宅街を通り抜けた先に「とんかつ太志」はある。
店の構えは小さい。カウンターには6人座れるかどうか。テーブルは2脚だったと思う。年季の入ったカウンターの色合いと抑えた照明もあって店内は落ち着いた雰囲気。
ひれかつ定食(ランチ)を頼んだ。
ところで、とんかつ屋には最近随分とがっかりしている。以前はおいしいとんかつ屋を探すなどそれほど難しくなったと思う。ところが、昔おいしかった店を20年ぶりに訪れると紙のように薄くなっていてがっかり、などとということがある。
とんかつ屋の商売を理解するには幾何学の基礎が必要だ。客は肉が大きいと喜ぶ。肉を大きく見せたければ、薄く切った肉を出せばいい。同じ体積でも薄い肉は大きく見える。ところが、薄板は体積に対する表面積の比が大きい。そして衣の体積はとんかつの表面積に比例する。
これらを総合すると
「肉の体積が同じでも薄いとんかつは衣が多い」
と言う結論に達する。社会が不景気になればとんかつが薄くなる。薄くなったとんかつは衣ばかりだ。フランチャイズのとんかつ屋はまだましだが、独立経営の店は薄い衣のとんかつを出すようになったと思う。
ところが、太志は違う。出された皿を見て大げさではなく驚いた。6つに切られた分厚いとんかつがどん!と並んでいるのだ。食べてみると、分厚い肉から出てくるうま味が口の中に広がる。きつね色の衣もサクサクしている。これこれ。とんかつ屋に私が期待するのはこういう食べ物だ。
思うに分厚いとんかつは揚げるのが難しいのではないか。熱い油で揚げれば中まで火が通らないか、通せば衣が黒くなる。熱くない油で揚げると衣がべたべたになる。中までしっかりと火が通り、揚げ過ぎず、衣もべたべたしない。どうやって調理したものかと首をひねりながら味わった。
ところで、食べたのはランチメニューのとんかつだった。実はディナーメニューにもとんかつがあるが少しお高い。聞けばディナーメニューは肉が違うとのこと。ランチでもこれほどおいしいのだ。ディナーはいったいどれほどおいしいのだろうか。
お勧め度
★★★★★
次はディナーメニューで食べる。
地図